卸売・商社の中小企業では、「仕入先への発注」「販売先への提案・受注」「在庫の把握」「納期管理」が別々のExcelやシステムで管理されていることが多く、情報の断絶が業務効率を下げています。
この記事では、卸売・商社がSalesforceで仕入・販売管理を一元化した事例を3つ紹介します。専用の販売管理システムを導入するほどではないが、Excelだけでは限界を感じている企業にとって、Salesforceは有力な選択肢になります。
- 卸売・商社に共通する仕入・販売管理の課題
- Salesforceで解決できる具体的な業務と事例3選
- 卸売・商社がSalesforceを使うときの設計の考え方
- 専用の販売管理システムとSalesforceの使い分け
卸売・商社に共通する仕入・販売管理の課題
| 課題 | 具体的な困りごと |
|---|---|
| 仕入先情報の属人化 | 「どこにいくらで発注するか」「担当者の連絡先」が特定の人の頭や手帳の中にしかない |
| 受発注の二重管理 | 販売先からの受注はExcel-A、仕入先への発注はExcel-Bで管理。紐づきが見えず抜け漏れが起きる |
| 在庫状況の不透明さ | 現在の在庫数を確認するたびに倉庫担当者に電話する必要がある |
| 売上・利益の把握遅れ | 月次売上を集計するのに担当者ごとのExcelを合算する作業が必要で、リアルタイムに状況が見えない |
| 取引先への対応履歴がない | 「この販売先にいつ何を提案したか」「前回の商談でどんな話をしたか」が残っていない |
事例①:食品卸会社——販売先・仕入先・商品マスタを一元化
導入前の課題
販売先への営業・受注管理と、仕入先への発注管理が完全に別々のExcelで動いており、「受注したのに発注が遅れた」「発注したが受注データと数量が合わない」というミスが月に数件発生していた。商品マスタも担当者ごとに独自のリストを持っており、商品名や単価の表記ゆれが問題になっていた。
Salesforceで実装した内容
- 取引先オブジェクトを「販売先」と「仕入先」でレコードタイプを分けて管理。それぞれの属性(支払条件・担当者・エリアなど)を項目として追加
- カスタムオブジェクト「商品マスタ」を作成。商品名・品番・標準仕入単価・標準販売単価・仕入先を登録
- 商談オブジェクトで受注管理。受注フェーズが「確定」になったとき、仕入先への発注タスクを自動生成するFlowを設定
- 販売先別・商品別の月次売上をリアルタイムで確認できるダッシュボードを構築
導入後の変化
受注と発注が同じSalesforce上でつながったことで、発注漏れが大幅に減少した。商品マスタが統一されたことで、担当者間の単価の食い違いも解消。月次の売上集計もダッシュボードで即座に確認できるようになった。
事例②:建材商社——仕入先マスタ整備で発注業務の属人化を解消
導入前の課題
「この部材はどこに発注するか」「仕入単価はいくらか」「最低発注数量は?」という情報が、経験豊富なベテラン担当者の頭の中にしかなかった。新人が発注しようとするたびにベテランに確認が必要で、ベテランの離席中は業務が止まることもあった。
Salesforceで実装した内容
- カスタムオブジェクト「品目マスタ」を作成。品目名・品番・仕様・推奨仕入先(第1・第2候補)・仕入単価・最低発注数量・リードタイムを登録
- 取引先オブジェクトの仕入先レコードに担当者連絡先・支払条件・発注方法(FAX/メール/Web)を追加
- 品目マスタから仕入先情報をワンクリックで参照できる画面レイアウトを設計
- 新規品目追加・単価変更時の承認フローをFlowで設定
導入後の変化
新人でも品目マスタを参照すれば、誰にいくらで発注するかが即座にわかるようになった。ベテランへの確認依頼が大幅に減り、発注業務のスピードが上がった。単価変更時の伝達漏れも承認フローで防止できるようになった。
事例③:工業部品商社——顧客への提案履歴と受注状況を営業チーム全体で共有
導入前の課題
営業担当6名がそれぞれ独自のExcelと名刺・メモで顧客を管理しており、「誰がどの顧客にどんな提案をしているか」が経営者にも他の担当者にも見えない状態だった。担当者が不在・退職するたびに顧客関係が途絶えるリスクが常にあった。また、月末の売上着地見込みを把握するのに、6名から個別に報告を集める手間が発生していた。
Salesforceで実装した内容
- 取引先オブジェクトで顧客情報を一元管理。業種・規模・主要担当者・購買決定者を標準化して記録
- 商談オブジェクトで提案〜受注フェーズを管理。提案内容・金額・確度・次のアクションを全営業が共通フォーマットで入力
- 活動(訪問記録・電話メモ)を商談・取引先に紐づけて蓄積
- 営業担当別・月別の受注金額と売上予実をダッシュボードで可視化。毎週の営業会議でSalesforceの画面を共有するルールに変更
導入後の変化
経営者が毎日Salesforceのダッシュボードで売上見込みを確認できるようになり、月末の報告集計作業がなくなった。営業会議の準備時間も短縮。担当者の退職時も、顧客の提案履歴・関係情報がSalesforceに残っているため、後任者がスムーズに引き継げるようになった。
卸売・商社がSalesforceを使うときの設計の考え方
3つの事例に共通する設計の原則をまとめます。
- 取引先オブジェクトを「販売先」と「仕入先」で使い分ける——レコードタイプで区別し、それぞれに必要な項目を追加する
- 商品・品目マスタをカスタムオブジェクトで整備する——「どこにいくらで発注するか」を誰でも参照できる形にする
- 受注と発注をSalesforce上でつなぐ——商談(受注)から発注タスクへの自動連携でミスを防ぐ
- 売上・受注状況をダッシュボードで見える化する——担当者への口頭確認なしに経営者が状況を把握できる環境を作る
⚠️ Salesforceは在庫の「現在数」をリアルタイム管理することには向いていません。入出庫が頻繁な在庫管理は専用の在庫管理システムと連携するか、Salesforceでは「発注・受注の数量管理」にとどめる設計が現実的です。
卸売・商社でSalesforceが最も効果を発揮するのは「仕入先・商品マスタの整備」と「販売先への営業・受注管理」の領域です。まず「どこにいくらで発注するか」を誰でもわかる状態にすることが、属人化解消の第一歩です。
まとめ
卸売・商社の中小企業がSalesforceを活用するとき、最も解決できる価値が高い課題は「仕入先・商品情報の属人化」と「受発注の情報断絶」です。
専用の販売管理システムは高額で導入ハードルが高い一方、Salesforceはカスタマイズの自由度が高く、自社の業務フローに合わせてゼロから設計できる点が中小企業に向いています。まず仕入先マスタと商品マスタの整備から始めると、導入初期から効果を実感しやすいです。